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被災地の医薬品配送、「トイレ確保」が課題に  スズケン、解決見通せずも安定供給に尽力【無料公開】

2024/1/23 04:30

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現場ではトイレ問題が喫緊の課題となっている

 能登半島地震からのインフラ復旧が長期化しており、被害が大きかった奥能登2市2町への医薬品配送では「トイレの確保」が喫緊の課題となっている。地震により水道施設や管路に被害が生じてほぼ全域で断水が続いており、配送中に使えるトイレも井戸水を使ったものや仮設トイレに限られ、被災者を優先するためにも表立っては使いにくくなっている。こうした中でも、スズケンは2市2町への医薬品の安定供給に向けた取り組みを継続。使用できるトイレの情報を社員で相互に共有するなど対応を進めているが、根本的な解決は見通せないのが現状だ。

●使用できるトイレも衛生状況悪く

 「上下水道の復旧が進んでいないために使用できるトイレであっても衛生状況が悪く、本当にどうしていいか分からない。復旧が進展するまでは大きく改善しないと想定しており、試行錯誤を続けている」。同社七尾支店の井上貴雄支店長は、トイレ問題が現場の大きな悩みの種になっていると率直に打ち明ける。

 半島内の道路は、2市2町へのアクセス自体は確保できているものの、まだ円滑に通行できる状況にはなく、配送は早朝から夜までかかる一日仕事だ。そうした中でトイレに行く回数を減らすためにも配送に従事する社員は極力飲食しないようにしており、ただでさえ大変な業務を一層過酷なものにしている。

 奥能登への医薬品の配送を担当する七尾支店販売課の村主憲吾さんは、「渋滞もあって、10分間で数十メートルしか進めないこともある。市街地を出るとほとんど使えるトイレがなく、こうした際に渋滞に巻き込まれると我慢しなければならず大変だ」と苦労をにじませる。

 現地の診療所や薬局といった顧客も断水によってトイレが使えない状況が続いていると言い、「担当している診療所には、スタッフも含めて全員女性というところもある。トイレが使えなくて、スタッフにずっと所内にいてほしいとは言いにくいという話も聞いている」と語る。

●ローテーションなどで負担軽減

 危険な道路を長時間運転する上にトイレの問題もあることから、スズケンでは奥能登への配送は1ルート2人一組で担当している。現場の負担軽減のため、富山・福井支店やグループ企業で医薬品流通を担うエス・ディ・ロジから応援部隊を派遣して、奥能登への配送翌日は内勤や短時間で配送できるルートの業務に従事する体制を構築。社員が2日連続で奥能登への配送業務を担うことがないよう、ローテーションを組んで配慮している。

 支店内では、村主さんをはじめ社員同士で渋滞を避けるためのルートの設定や使いやすいトイレの情報を共有しており、応援で入った社員も含めて奥能登で円滑に行動できる人材の裾野を広げることで難局を乗り切る構えだ。

●温度管理必要な診断薬、運送会社に代わり納入も

 一方、石川県内の物流がまだ平常には戻っていないことを踏まえ、スズケンでは通常は行っていない特例的な対応も実施中だ。温度管理が必要な診断薬について、従来はメーカーから専門の運送会社が直接病院に納入していたが、道路状況を理由として運送会社が納品を断る事態が発生した。

 そのため、スズケンは運送会社が診断薬を運べる金沢市内で製品を受け取り、安定供給を全うするため道路状況が悪い中でも診断薬を必要とする被災地の顧客の元に届けているという。井上支店長は、「イレギュラーな依頼が増えており、こうした対応にも人を割かなければならなくなっている。診断薬は温度管理が必要で時間内に届けなければならないが、金沢支店と連携しながら取り組んでいる」と語り、突発的な対応であっても必要な医薬品は顧客に届けていく姿勢を示した。(加藤 祐樹)

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