モノづくりのマインドが消えつつある日本
皆に知ってほしいGMP〈2〉
じほうは、GMPのe-learning「e-GMP」を配信しています。そのe-GMPに新しい講座「GMPマインド講座」が加わりました。これは「医薬品のものづくりに関わる上で必要なマインドセット」を身に付けるための講座です。GMPは、製造現場の方だけでなく、製薬業界で働く皆さんが知っておくべきものです。経営層から、初めてGMPに触れる人まで、医薬品業界の全ての人に知っておいてほしいと思います。本連載では、e-GMPの監修者である東京理科大薬学部の櫻井信豪氏に、GMPマインド講座に込めた思いを語っていただきます。
今は、お金がお金を生む時代だと言われる。汗をかかなくても稼げる仕組みがあり、パソコン一つで仕事が完結する会社も増えた。テレワークで十分に成り立つ仕事もある。情報、金融、IT、AI。若い世代にとって、仕事のイメージはどんどん変わっている。
もちろん、それは悪いことではない。しかし、お金を生むために借金までして稼ぐことに何となく抵抗を感じる。時々起こる経済的破綻、挽回のためのさらなる借金、成功者と敗者。敗者はお金に心がむしばまれることに・・・。新しい技術や働き方は、社会を便利にし、多くの可能性を広げているのは事実。素晴らしい。しかし、その一方で、私たちは「モノをつくる」という感覚から少しずつ遠ざかっているのではないか。
工場は、画面の中にはない。そこには設備があり、原料があり、空調があり、水があり、人がいる。温度や湿度を管理し、異物や汚染を防ぎ、決められた手順で作業し、記録を残し、異常があれば立ち止まる。医薬品の製造現場は、毎日生きている。
そして、そこでは今も現場で汗をかいている人たちがいる。ラインを止めないように、しかし品質を犠牲にしないように。納期を守りながらも、安全性と有効性を守るために。見えないところで多くの人が判断し、確認し、責任を背負っている。
Z世代、そしてAI時代の若者たちは、とても優秀である。情報を集める力も速い。効率よく学ぶ力もある。頭ではすぐに理解する。「品質が大切」「ルールを守るべき」「患者さんのために必要」―そう説明すれば、多くの学生はその意味を理解する。
しかし、頭で分かることと、現場で実感し、実践することは違う。
例えば、手順書と異なることをやってしまったとき、記録の1行を軽く扱ったとき、その先で何が起こるのか。温度逸脱を見逃したとき、変更を簡単にやってしまったとき、どのようなリスクがあるのか。確認を1つ省略したとき、誰に影響が及ぶのか。これは知識だけではなく、想像力の問題でもある。
GMPマインドとは、単にルールを守る態度ではない。自分の仕事の先に、患者さんがいると想像できる力である。自分の作業が、医薬品の品質につながり、患者さんの命につながっていると感じられる力である。
日本のモノづくりは、かつて丁寧さ、正確さ、現場力を強みとしてきた。海外でもジャパンクオリティーと称されてきた。しかし、それは放っておいても続くものではない。現場を知らない世代が増えれば、その価値は伝わりにくくなる。
だからこそ、今、モノづくりのマインドを言葉にして伝える必要がある。工場で働くことの価値、医薬品を作ることの重み、そして品質を守る仕事の誇りを、次の世代に手渡していく必要がある。
※e-GMPおよびGMPマインド講座についての詳細はホームページ(https://ptj.jiho.jp/eGMP/?utm_source=nk)をご参照ください。
【略歴】櫻井信豪(さくらい・しんごう)
・1985年 東京理科大大学院薬学研究科修了(薬剤師)
・1985年 製薬企業に勤務し、医薬品の研究・技術開発、品質管理、品質保証に携わる(19年間)
・2004年 医薬品医療機器総合機構(PMDA)にてGMP等の品質管理業務を担当(16年間)
・2020年 東京理科大薬学部薬学科医薬品等品質・GMP講座教授