当たり前の品質文化

皆に知ってほしいGMP〈4〉

 品質文化という言葉は、少し難しく聞こえる。特別な理念や、立派なスローガンのように感じる人もいるかもしれない。しかし、本当の品質文化とは、もっと日常的なものではないかと思う。

 品質を守る行動が、当たり前になっていること。
 おかしいと思ったら、声に出せること。
 分からないことを、分からないと言えること。 
 肩書に関係なく、品質のために意見を交わせること。

 それが、品質文化の土台である。

 GMPでは、手順書、記録、教育訓練、逸脱管理、変更管理、CAPA(是正措置と予防措置)など、多くの仕組みが求められる。もちろん、それらは重要である。しかし、仕組みがあるだけでは品質は守れない。手順書があっても、読まれなければ意味がない。記録欄があっても、事実が書かれなければ意味がない。逸脱報告の制度があっても、報告しにくい空気があれば機能しない。

 大切なのは、自由に言い合える風土である。

 例えば、若い作業者が「これは少し変ではないですか」と言えるか。経験のある人が「前からこうしているから大丈夫」と片付けず、立ち止まれるか。周りの人が、その声を面倒なものとして扱わず、問題を見つけたこととして受け止められるか。

 品質文化は、会議室でつくられるものではない。日々の現場のやりとりの中で育つ。朝の挨拶、作業前の確認、記録の書き方、ミスが起きたときの対応。その積み重ねが、会社の文化になる。

 ある意味で、品質文化とは「当たり前」のレベルを上げることだと思う。

 決められたことを守るのが当たり前。
 疑問があれば確認するのが当たり前。
 都合の悪い情報ほど早く共有するのが当たり前。
 品質を納期や効率の後回しにしないのが当たり前。

 この当たり前が組織に根付いたとき、品質文化は特別な言葉ではなくなる。

 「肩書を失くした会社」というのをテレビで見た。なるほど、と思った。もちろん組織には役割や責任が必要である。しかし、品質に関する議論の場では、肩書が邪魔になることがある。誰が言ったかではなく、何が正しいか。立場の強さではなく、品質リスクとしてどう考えるか。

 GMPの世界では、最後に守るべきものは患者さんである。その前では、肩書よりも事実が大切であり、立場よりも誠実さが大切である。

 最近は医薬品業界の人からだけではなく、食品や化粧品業界の方々からも「品質文化醸成のために何をしたらよいか」と聞かれる。もちろん答えはない。皆さんが望む「ありたい姿」って何ですか、話し合ったことはありますか。皆さんもそうですが、経営層の方々も品質文化の重要性を理解していますか、と逆に聞いてしまう。とてもひどい講師だ。

 品質文化は、特別な人だけがつくるものではない。現場の一人一人が、自分の仕事の意味を理解し、声を出し、考え続けることでつくられる。

 当たり前のことを、当たり前に続ける。

 それが一番難しく、そして一番強い品質文化なのだと思う。(おわり)


※e-GMPおよびGMPマインド講座についての詳細はホームページ(https://ptj.jiho.jp/eGMP/?utm_source=nk)をご参照ください。
 

【略歴】櫻井信豪(さくらい・しんごう)
・1985年 東京理科大大学院薬学研究科修了(薬剤師)
 ・1985年 製薬企業に勤務し、医薬品の研究・技術開発、品質管理、品質保証に携わる(19年間)
・2004年 医薬品医療機器総合機構(PMDA)にてGMP等の品質管理業務を担当(16年間)
・2020年 東京理科大薬学部薬学科医薬品等品質・GMP講座教授
 

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