なぜ「GMPマインド講座」を作成したか
皆に知ってほしいGMP〈1〉
じほうは、GMPのe-learning「e-GMP」を配信しています。そのe-GMPに新しい講座「GMPマインド講座」が加わりました。これは「医薬品のものづくりに関わる上で必要なマインドセット」を身に付けるための講座です。GMPは、製造現場の方だけでなく、製薬業界で働く皆さんが知っておくべきものです。経営層から、初めてGMPに触れる人まで、医薬品業界の全ての人に知っておいてほしいと思います。本連載では、e-GMPの監修者である東京理科大薬学部の櫻井信豪氏に、GMPマインド講座に込めた思いを語っていただきます。
薬学部でGMPに関する授業を担当するようになって、まず感じたことがある。学生たちにとって、GMPは少し遠い世界なのだ。
前期に7コマの授業を実施している。内容としては、医薬品の品質を守るために必要な考え方、制度、製造所の仕組み、承認書との関係、薬事制度の歴史など、どれも製薬に関わる者にとっては大切なテーマである。しかし、学生の反応を見ていると、どうも食い付きが悪い。中にはとうとう堂々と寝出すやからも・・・。
理由はいくつか考えられる。GMPには、どうしてもレギュレーションの話が多い。省令、通知、基準、手順書、記録、逸脱、変更管理―。初めて聞く学生にとっては、言葉だけで壁を感じてしまうのかもしれない。一方で、不正製造の話になると、目が輝き出すやからもいる。
さらに、多くの学生は製薬工場を見たことがない。見たことがあるといっても、半日の見学コースに行った程度で、印象を聞いても何も覚えていない。当然かもしれない。製薬工場では、原料が受け入れられ、試験され、保管され、製造工程に入り、包装され、出荷される。その一連の流れを実感として持っていない。多くの従業員が安全第一で働き、その工場の空気、音、におい、緊張感を知らないまま、いきなり授業でGMPの条文や管理項目を学んでも、なかなか自分ごとにはならない。無理もないと思う。
そもそも、製造業そのものに興味を持つ学生が少なくなっているのかもしれない。薬学部といえば、病院、薬局、研究、開発、臨床といったイメージが先に立つ。中にはPMDAに行きたい、と言ってくる学生もいるが、PMDAで経験を積んで将来は企業に行きたいそうだ。これには日本の行政マンの安定性に不安を覚えるが、そもそも製造所で医薬品を作る仕事は、学生にとってあまりにも見えにくい領域なのだ。しかし、医薬品は誰かが作らなければ、患者さんの手元には届かない。海外で作ればいいじゃないか、という意見も時々聞くが、感染症有事の際にはどうだろう。原薬の備蓄も検討されているくらいで、やはり国内製造を進めるべきである。海外で作ったとして、それを管理監督する人材はGMPに精通していなければならない。
そこで考えたのが、「GMPマインド講座」である。社会人になってGMP部門、GQP部門に配属され、本格的にGMPを学ぶにしても、学生にはせめてGMPの基礎を学んで卒業していってほしい。欲を言ったら欧米の薬学生のようにしっかりとGMPを学んでほしいが、日本の薬学部カリキュラムはなかなかそう簡単に変えられない。今は、学生にはせめて生命関連品のモノづくりのマインド、ということである。
単にルールを覚える講座ではない。GMPを、規制の暗記ではなく、「医薬品を作る人の考え方」として伝えたい。なぜ記録が必要なのか。なぜ確認を重ねるのか。なぜ決められた手順を守るのか。なぜ“たぶん大丈夫”では済まされないのか。
医薬品の品質は、最後に試験をすれば保証できるものではない。現場の一つ一つの判断、作業、記録、確認の積み重ねによって守られる。その背景には、ルールだけでなく、サイエンスがあり、そして製造に関連する人々の意識がある。
学生たちに、まずはモノづくりの面白さを知ってもらいたい。薬は、研究室の中だけで生まれるのではない。工場の中で、たくさんの人の手と適切な判断を経て、初めて患者さんに届く形になる。
GMPを学ぶことは、単に規制を学ぶことではない。医薬品を通じて、人の命を支える仕事の重みと面白さを知ることでもある。その入り口として、この講座を作成した。
※e-GMPおよびGMPマインド講座についての詳細はホームページ(https://ptj.jiho.jp/eGMP/?utm_source=nk)をご参照ください。
【略歴】櫻井信豪(さくらい・しんごう)
・1985年 東京理科大大学院薬学研究科修了(薬剤師)
・1985年 製薬企業に勤務し、医薬品の研究・技術開発、品質管理、品質保証に携わる(19年間)
・2004年 医薬品医療機器総合機構(PMDA)にてGMP等の品質管理業務を担当(16年間)
・2020年 東京理科大薬学部薬学科医薬品等品質・GMP講座教授