能登半島地震で震度6強の揺れがあった石川県珠洲市に岐阜県薬剤師会のモバイルファーマシー(災害対策医薬品供給車両、MP)が7日に入り、活動を始めた。同市出身で親戚のほとんどが避難所生活を送り、経営する薬局の一部店舗も被災する中で、発災当初から薬剤師として被災者支援に当たり、同市へのMP導入の調整を担った石川県薬剤師会の橋本昌子副会長(62)は「これで珠洲市で調剤の体制が整う」と語った。同日早朝に金沢市で開かれたMPの出陣式で報道陣の取材に応じた。
●自らの親戚・店舗が被災する中で奮闘
橋本氏は、1日に居住する金沢市内で地震に遭遇した。珠洲市に住む親戚は自宅が全壊の家もあったが全員無事だった。ただし、そのほとんどの人が避難所生活を余儀なくされている。
また、経営する薬局のうち石川県の七尾市と中能登町の2店舗で商品が落下したほか断水となり、その対応に追われている。
そうした状況の中で、橋本氏は、石川県薬の珠洲市の被災担当として岐阜県薬剤師会が所有するMPの導入を調整し、7日に出発日を迎えた。これが今回の地震で第1号のMPとなる。
橋本氏はMPのメンバーである岐阜県薬の薬剤師らと午前7時ごろ金沢を出発し6時間かけ午後1時ごろ現地に到着した。MPは緊急車両扱いのため一般車両よりも早く着くが、道路が寸断され迂回したため通常の3倍の時間がかかった。到着後、災害派遣医療チーム(DMAT)など珠洲市内の医療支援を行う隊員が詰める拠点で、震度4の余震が続く中、橋本氏はMPのメンバーと共にMP開局の準備を進めた。
●待たれていたMP、8日から調剤開始
珠洲市は7日時点でもほぼ全域で依然断水の状態で余震も続くため、橋本氏によると、約70カ所の避難所(うち公式の避難所21カ所)でほぼ全ての住民が避難生活を送っている。
市内の病院、診療所はもともと院内調剤のため調剤薬局は市内にない。現在、避難所生活を送る住民の医療は避難所を往診で回るDMATなどの医師に委ねられている。医師は持参した薬を処方しているが種類が限られる。また発災当初の急性期から今は慢性期へと治療薬に関するニーズも変化している。
このため仮設の調剤薬局の機能を担うMPの導入が待たれていた。同日は医師らとの打ち合わせや開局準備に追われていたため8日から災害処方箋に基づく調剤を始めるという。
●9日に輪島市にも導入
珠洲市に続き、9日には三重県薬剤師会が所有するMPが輪島市に導入される予定だ。
橋本氏は「被災者に寄り添い持病の薬を安心して受け取れる環境をここ珠洲市だけでなく県薬の仲間と共に県内の必要な被災地に届けていきたい」と述べた。(海老沢 岳)