熊本県南部での豪雨による球磨川の氾濫を受けて、熊本県薬剤師会の会員薬剤師が被災者支援活動に奮闘している。7日には医師と連携し避難所での薬剤の調剤を始めた。熊本市内の薬剤師会館で活動を統括する江上祥一副会長(67)が現地で、日刊薬業の取材に応じた。
●人吉市・球磨郡、会員の約3分の1が営業できず
熊本県薬は球磨川が氾濫し人吉市などで床上浸水が始まった4日午前7時40分に対策本部を設置し情報収集を始めた。対策本部の現在の主な活動は会員薬局の被害状況の把握と被災者支援の2つだ。
江上副会長らが会館で各支部の会員から各地の被害状況の報告を受けていた4日正午ごろ、人吉市の薬局に勤務する男性薬剤師から携帯電話で「自宅の屋根に取り残された。周りは一面泥水で身動きができない」と悲鳴のような声で連絡があった。
江上副会長は「しっかりつかまっているんだ。いずれ助けが来る」と励まし、男性は夕方になって水が引いたため、ゴムボートで救助された。
人吉市の市街地は広範な範囲が浸水した。熊本県薬によると、人吉市と球磨郡(4町5村)には57軒の会員薬局があるが、そのおよそ3分の1に当たる18軒が営業できない状態にあるという(7日時点)。
●常備薬を流された人や薬を取りに行けない人も
被災した地域の薬局が復旧するまでの“中継ぎ役”として熊本県薬は6日に「モバイルファーマシー(災害対策医薬品供給車両)」を人吉市一帯に派遣した。
モバイルファーマシーに積んだ薬剤は、県内で事業展開する医薬品卸各社から県が購入したもので、無償で被災者に提供される。
常備薬を洪水で流された人や避難所生活で薬を自宅に取りに行けないなど被災者の事情はさまざま。モバイルファーマシーには簡易ベッドが備え付けられており、3人の薬剤師が3日間泊まり込みで活動し交代要員に引き継ぐ。
7日、派遣薬剤師は大規模災害や事故などの現場に急行する医療チーム「DMAT」に同行し、球磨郡球磨村の避難所でDMATの医師が出した7人分の処方箋を元に医薬品を調剤して患者に提供した。
江上副会長は「薬を提供する以外に健康相談や感染症予防のための情報提供なども行うことができる」と述べ、県薬の薬剤師による被災者支援活動の場をさらに広げたい意向を示した。
●被災した薬局への支援も要望へ
一方で、被災した人吉市などで開業する会員薬剤師について「コロナの感染予防対策で薬局の設備投資を行い、これからという時に被災し必要な機器を失った。何らかの支援を自治体、国に要望したい」と述べた。