熊本県南部での豪雨による球磨川の氾濫は、医薬品卸にも大きな被害を及ぼしている。各社への取材によると、九州の卸、アステムの人吉営業所(熊本県人吉市)やメディパルホールディングスの子会社アトルの人吉支店(同)は、浸水によって医薬品が廃棄処分となるなど機能不全に陥っている。一方、同市内にある富田薬品の人吉営業所や東邦ホールディングスの子会社、九州東邦の人吉営業所は床下浸水程度で店舗への被害は免れた。各社とも人的被害はなかった。
●医薬品配送にも一部影響
アステムによると、4日午前8時に責任者が営業所に状況を確認に行くと、すでに足首まで浸水しており、急いでパソコンを2階に移動させたが、急に水かさが増してきたため慌てて避難した。5日にいったん雨が止んだため様子を見に行くと机の高さまで水が来た形跡があった。医薬品の在庫棚は水に浸ったため廃棄処分となり、プリンターやファクス、営業車両も使えなくなった。
雨が続いているため同社は6日時点で営業所に出社しないよう従業員に指示を出した。そのため同日夕方時点で医薬品の配送はできない状態となっている。緊急の医療機器については、八代支店(同県八代市)から配送を行っている。
アトルの人吉支店も約1メートル浸水し、医薬品が廃棄処分となり、パソコン・プリンター・通信機器と車両6台も使えなくなった。支店の復旧時期は未定。4日に医療機関(1軒)からあった注文については他の支店から5日に配送。6日以降は鹿児島県霧島市にある物流センターから直送している。
同社では4日午前9時に渡辺紳二郎社長を本部長とする災害対策本部を立ち上げ、渡辺本部長ら支援メンバーが5日に現地入り。泥のかき出しなどを行い復旧を急いでいる。
●富田薬品や九州東邦など、店舗への被害免れる
氾濫した球磨川に最も近かった富田薬品の人吉営業所は1階部分が駐車場、2階部分が事務所兼医薬品倉庫、出荷口となっていたため、店舗への直接的な被害は免れた。責任者が球磨川氾濫前の4日早朝に営業所に行き、車を1階の駐車場から2階の出荷口の駐車スペースに移動させた。
5日に1階駐車場の堆積物を他支店からの応援要員も加わってかき出し、6日は通常業務に戻った。医薬品の在庫に問題はない。
また東邦ホールディングスの子会社、九州東邦の人吉営業所も床下浸水で店舗に被害はなかった。
スズケンによると、子会社の医薬品卸、翔薬とグループの調剤薬局の建物に被害はなかった。同様にアルフレッサ ホールディングスも各拠点で被害はなかったとしている。
卸各社によると、人吉市内では固定電話が通じず、緊急車両以外の車は市内を通行できない状態になっているという。
●薬局12軒が営業できず 県薬がモバイルファーマシー出動
一方、厚生労働省によると、6日午後時点で人吉市内の薬局12軒が浸水被害に遭い営業できない状況となっている。同日、熊本県は県薬剤師会に人吉市内の避難所への「モバイルファーマシー(災害対策医薬品供給車両)」の派遣を要請。県薬剤師会のモバイルファーマシーは同日昼過ぎに熊本市を出発し、避難所での活動を始めている。